リアルハードロマンチッカー陸
〜リアルハードロマンチッカー伍からの続き
ボケ弁との打ち合わせを重ねとうとう裁判の日の朝がやってきた。
私は滅多に着ない地味なネイビーのスーツに袖を通し髪型を横分けに整え人生初の法廷に不謹慎にも心躍らせ家を出た。
東京地裁の前で件のボケ弁と待ち合わせ10分程打ち合わせをしたのち入廷した。
ほどなくして頭を丸めた彼が腰紐に繋がれて被告人としてやってきた。
暫くぶりに見る彼は顔の色艶もよく少し丸味を帯びていた。
裁判開始。
小泉進次郎に良く似たイケメン検事からの激しい攻勢
いや〜こいつは弁が立つし良い声してるし何より美男子だ!
ドラマの裁判シーンを観てるようだわ、正真正銘の本物の裁判なんだが。
迎え撃つボケ弁…期待を裏切らないボケっぷり、噛むわ返答に窮するわで私が弁護した方がいささかマシなんじゃないかって位のお粗末な弁護だった。
そしてやって来ました情状証人の私の出番!
おもむろに証言台に立ち彼との出会いから今日に至るまでの経緯
そして今回何故この場に立つ事を引き受けたのか
刑期を終え出所したあと、彼に対してどのように監督していくのか…
途中から完全にスイッチの入った私は新劇の俳優か売り出し中の若手代議士かってくらい身振り手振りを交え裁判官に訴えかけた。
しかも打ち合わせを何度も重ねボケ弁と練り上げたストーリーを完全に無視して本当の事、本当の心境を口角泡を飛ばし高らかに訴えかけた。
だって偽証罪犯すのいやだしね。
傍聴席からまばらに拍手が起き、被告席の彼は泣き崩れ、ボケ弁はポカーンと阿保面を晒していた。
そして判決。
執行猶予なし懲役○○年。
長旅へと彼は旅立った。
彼と出会ってからの決して長くはないが濃密で劇薬の様な日々が私の脳裏に蘇ってきた。
呆気ないもんだよな。
なんて思いながら法廷を出た私をボケ弁が呼び止めた。
せっかく練り上げたストーリーを無視しやがって!と怒られるのかな〜なんて思いながら振り向いた私に
「お疲れ様、良かったですよ」
…そうか良かったのか、なら良かった。
「お疲れ様です!先生、地下の食堂で飯食って行きましょう」
…続く、かもしれない